業務分野別の経験的アドバイス小話【品質管理編】
以下の小話は、作者が1981年から1995年の間、ジャカルタにあるヤマハの楽器工場で、生産課長そして工場長として駐在していた当時の経験や実例を基に、会社の業務または部門別に、日本人駐在員にとって役立つと思われることを書き出したものです。中には昔話になってしまった事例もあるかもしれませんが、インドネシアの良い面、悪い面を感じとってもらい、現地で仕事をする際のアドバイスになれば幸いです。
品質管理編
【品質に相当する単語が無い?】インドネシア語にはMutuという単語はありますが、特に産業分野では、なぜか英語のQualityをもじったKwalitastが良く使われます。Mutuは等級の意味合いが強いようですが、中味そのものの質を追求する場合はしっくり来ないのかもしれません。深く考えて見ると、出来上がった成果物を並べて比較評価することはあっても、その途中経過の仕事の質や材料の質についてはあまり追求しないように見えました。住んでいた借家の契約を更新した時のことですが、家の修理に一ヶ月くらい大工などの職人が入りました。私の実家は父方、母方共に職人が多かったので、休日には興味を持って仕事ぶりを見学していました。大工職人が柱を新しいものに替えようとしていたのですが、図面寸法より少し長かったのか、その場で鋸を使って切り取ったのは良いのですが、切り過ぎて短くなったので、今度は板を釘で打ち付けていました。しかし、そんな感じで進められた改装工事も仕上がりは大変奇麗でした。でも地震が来たら恐いなあと思いながら、それからまた3年間その家に住み続けました。
【臭いものには蓋をする】日本の工場では問題が発生したら『なぜ?』を5回繰りえして真の原因を追及せよと教えられます。木工加工職場では木屑が大量に飛び散り、製品の化粧面を重ね合わせた際に擦り傷が付いて困りました。従業員に改善提案をさせてみたのですが、改善策は『刷毛を持った清掃担当を配置して、積み重ねる前に木屑を取り去る』という類のものがほとんどでした。木屑が飛び散らないように、集塵装置を改良しようという発想は出ませんでした。また、職場を綺麗にしましょうと言うと、まず提案されるのが、機械設備のペンキを塗り直すことでした。汚れの原因を突き止めて、それを排除するという発想がなかなか出てこないのが残念でした。でも彼らからしてみれば『そこまで根を詰めなくてもいいではないか、もっと気楽にやろうよ』と言いたかったのかもしれません。
【ISO9000の普及は早かった】日本企業がまだISOに懐疑的だった1980年代、インドネシアの地元企業では先を争ってISO9000の取得に努力していました。特にヨーロッパ向けの製品を作っていたところについては言うまでもありません。最初はシンガポールにある認証機関に申請したようですが、そのうち国内にも認証機関が乱立し始めました。当時良く耳にしたのは、『うちはISO9000を取得したから品質レベルが高い』という自慢話でした。製品の絶対的な品質レベルとISO9000の取得とは別ものでしょ、と言ってもなかなか同意を得られませんでした。