インドネシアで商品競争力を高めるということ
既にインドネシアに進出している企業も、これから進出を計画している企業も、昨今のインドネシアの急激な賃金値上には困惑を通り越して、絶望感すら抱いている方もいるのではないかと懸念しております。全国で一番高い最低賃金となった、カラワン地区の自動車業種は日本円で約月34,000円で、2003年の40%アップとなりました。安い人件費を期待してインドネシアに進出したはずなのに、このような賃金上昇が今後も続くのであれば、拠点のシフトを本気で考えなくてはいけないと思うことでしょう。
また、現地で部材の調達が出来ず、中国、韓国、日本などからの輸入に頼っているケースでは、最近のルピア安による輸入材コストの上昇が大きな問題になっているものと懸念されます。豊富な天然資源に恵まれているのに、それらを国内で工業材料に加工する産業が未発達のため、付加価値を中国や韓国などに落とし、それを輸入することで、結果として高い価格で調達することを余儀なくされていることも、実態を知れば忸怩たる思いに駆られます。
しかし、ここまで頑張ったのに、あるいは国内市場の潜在力がここまで大きくなっているのに、拠点やを他の国に移すというのも簡単な話ではありません。それではどうしたら良いのでしょうか?今回は、会社全体の価値創造の源泉を、以下の四つの観点から見直すことで、現状の事業における新たな利益源の発見、新たなコストダウンのネタの発見に繋がるための考え方を紹介したいと思います。
四つの観点とは;
①サプライチェーン:商品を作ってお客様に納入するプロセス
②デザインチェーン:商品を開発設計するプロセス
③カスタマーチェーン:お客様から注文を頂くプロセス
④マーケティングチェーン:新たな市場を開拓するプロセス
ですが、以下にそれぞれの捉え方について説明します。
①サプライチェーン:商品を作ってお客様に納入するプロセス
部材を調達して、製品に加工し、それらを顧客に納入する一連のプロセスです。冒頭の人件費や材料費、いわゆる直接コストはこのプロセスで発生しますが、プロセス全体で発生する総コストに占める直接コストは意外に小さいのが普通です。逆に、このプロセスを回すための、いわゆる間接コストは、新興国においてはより大きくなるのが常です。特に立上当初の、現地人従業員が少ない期間の日本人駐在員のコストは突出して大きコストになるはずです。如何に少ない日本人で回すのか、それは直ぐに出来るものではありませんが、時間をかけて優秀なインドネシア人を採用することが求められる時代になって来ています。
インドネシアに生産拠点を設けている、または設けることによる大きな優位点は、顧客から見た納期と注文変更に対する対応が格段に向上することです。顧客が自分で日本から直接輸入していた場合は2ヶ月とか3ヶ月だった納期が、少なくとも海上輸送や輸入通関の時間として約1ヶ月は短縮するはずです。もちろん、その短縮に相当する分はインドネシアの自社工場の在庫として確保しなくてはなりませんが、この在庫を上手く活用することで、顧客の突然の注文変更にも対処出来る場合の顧客のメリット、すなわち競争力と天秤にかけた場合、どうでしょうか。
②デザインチェーン:商品を開発設計するプロセス
顧客の声、セールスマンの声、サプライヤの能力、自社工場の能力などに耳を傾け、既存の製品の機能や仕様を見直す、あるいは新たな製品を開発設計する作業をどこで行っていますか。また、それらの声をきちんと製品に反映していますか?
なにも立派な開発センターなどを設立する必要はありません。社長でも、工場長でも、生産課長でも良いから、それが出来る人が担当すれば良いのです。意外に大事な声は、販売代理店のセールスマンからのものです。彼らは顧客の事情と供給会社の事情の双方を知っていますから、単なるアイデアや希望ではなく、実現可能な改善点を示唆してくれることが多いのです。
最終顧客だけが顧客ではありません。まずは販売店のセールスマンが売る気にならないといけません。彼らに会うために日本から7時間も飛行機に乗って来る必要はありません。少し車を走らせればいつでも会えるのです。工場の人間だからと言って工場に引き籠っていてはいけません。
③カスタマーチェーン:お客様から注文を頂くプロセス
既存の市場に存在する同製品の全てのユーザーはお客様の候補と考えて、その発掘、訪問、売込に注力する場合、現地に拠点がある方が圧倒的に有利なのは説明するまでもありません。しかし、デザインチェーンのところで指摘したように、工場の人間だからと言って工場に引き籠っていることはありませんか?
会うことが出来て、サンプル提示や試作を行う段階に進んだ場合でも、日本からコンタクトするよりも断然有利です。人材が居ないとか、忙しいとかの理由でこの有利な状況や機会をみすみす逃してしまいますか?
④マーケティングチェーン:新たな市場を開拓するプロセス
インドネシアはマクロ的に見て日本の昭和40年代と同じスピード、規模で急成長している国と言えます。当時の日本にも新たな事業を起こす真っ新な分野は沢山あったのではないでしょうか。ましてや国土、人口そして資源が日本とは比較にならないくらい大きなインドネシアにおいは、日本では見られなかった、新たな市場が生れることも期待して良いのではないでしょうか。
そんな全く新しい市場に自社のどんなリソース(技術、製品、人材など)が活かせるのか、常にアンテナを張り巡らせている会社になりたいものです。蜘蛛の巣を張らなければ、餌が掛かることは絶対にありません。