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2018.12.04 最近のニュースに私的コメント

インドネシアはどこへ行くのか?

 12月2日にジャカルタの独立広場で、2年前に当時のジャカルタ州知事を退陣と逮捕に追い込んだ212活動の再集会が開催された。
 参加者数は主催者側で百万単位なのに対して警察側で十万単位であったが、独立広場とその周辺の道路が白い服装のイスラム教徒で埋め尽くされた様子はドローンで撮影され、その数の多さには驚いた。
 イスラム教徒達が自発的に自費で集まったと主張する声もあるが、一人当り10万ルピア(約800円)+昼ご飯であったとの報道もある。前者の声をそのまま信じるには余りの規模であり、誰かの意図と資金提供がなければ難しいだろうと考えるのが普通だと思う。
 では誰が何のためにこれを行ったのか?直ぐに思い付くのが来年2019年4月に予定されている大統領選挙である。彗星のように中央政界に現れた現職のジョコウィ大統領のさらに5年の再選がなるか、それとも前回の大統領選挙で一騎打ちを演じて惜しくも敗れた、元国軍司令官で30年間の長期独裁政権スハルト大統領の後継者とも目されていたプラボウォ氏が雪辱を晴らすか。プラボウォ氏がこの大会を裏で画策したような印象を与えているテレビニュースもある。
 プラボウォ氏とコンビを組む副大統領候補のサンディアガ氏は何れも億万長者であるから、これくらいの資金を出すのは容易いことだろう。
 しかし果たしてそんな単純なことだろうか。インドネシアは世界2位の石炭輸出、世界4位の人口、世界14位の国土、世界17位のGDP、世界21位の石油生産量、そして世界最大のイスラム教徒を抱える名実ともにアセアンの盟主であり、G20のメンバーでもある。このような国の大統領選挙が国内の勢力争いだけに影響されるとはとても思えない。
 インドネシアは17世紀から20世紀まではヨーロッパ諸国の植民地政策の影響をまともに受けて来た。そして1945年に独立した後も、冷戦下の勢力争いの影響と思われるが、1965年に共産クーデターが失敗した後は30年間の長期独裁を維持したスハルト政権の下、西側諸国の一員として経済発展を遂げて来た。
 ソビエト連邦崩壊で東西冷戦が終結した1991年以降、インドネシアは1998年のアジア金融危機に端を発した国内の動乱でスハルト政権は崩壊し、その後の6年間の政治的な混乱を経た2004年に、初めての国民による直接選挙で選ばれたユドヨノ大統領の2期10年の間に民主化と経済成長が実現された。
 この間もインドネシアを取り巻く世界情勢は目まぐるしく変わり、2014年に現職のジョコウィ大統領が登場した頃には、ソビエト連邦に代わってアメリカと競合するだけの力を付けたと見られる中国の存在がアジア情勢に大きな影響力を持つようになって来た。 
 中国共産党が公式に打ち出している2050年の世界地図を見ると、日本、台湾、アセアン諸国、インド、そしてオーストラリア、ニュージーランドは中国の領土として赤く塗りつぶされている。実際のところ、中国はこれを実現するために、尖閣問題や南シナ海問題を引き起こし、一帯一路と称するキャンペーンの下に着々と手を打っている。孫子の兵法に基づき、100年の計を実現しようとする国家戦略は大したものである。
 もう一度先ほどの赤く塗りつぶされた2050年の世界地図を見てみると、アセアン諸国を下から支えるように抱え込んでいるインドネシアは、この戦略を推し進める上で最大の強敵であるアメリカの同盟国、日本の生命線としてのシーレーンであるマラッカ海峡をも抱えていることに気が付くはずである。
 もしも中国がインドネシアを支配下に収めてしまえば、まるでオセロゲームのようにアジアの勢力図は一気に変わってしまうだろう。2050年の世界地図の実現である。
 以上のような観点から昨今のインドネシアでの出来事を考えてみるとどうだろうか。支配下に収めるためにすることは昔から変わっていない。国家または民族の分断である。オランダがインドネシアを植民地として支配するために行ったのもこれであり、この方法は今でも世界のあちらこちらで行われている。アメリカの言うことを聞かない有能な独裁者達はアラブの春と称した分断戦略で葬られた。シーア派とスンニ派の対決を煽り、アラブ世界の構造を変えてしまおうとする動きも見られる。
 インドネシアは建国の精神を『多様性の中の統一』と謳っている。また最近は建国五原則を通じて国家の統一を訴える政府のキャンペーンも多くなっている。
 これらは民族が容易に分断されることの裏返しでもある。イスラムと非イスラム、プリブミ(土着のインドネシア人)と華僑、一握りの大金持ちと大多数の貧しい庶民、分断の要素は多く引き起こすことも簡単であろう。
 汚職撲滅委員会の存在は、国の指導者層がお金に弱いことを物語っている。このことは大金を提供すれば分断工作も簡単に進められる危険性を示唆している。
 昨夜のテレビ討論番組では電話口に出た若いイスラム指導者と、老齢なイスラム団体幹部が互いを非難するような議論を交わしていた。インドネシアには以前からいくつかのイスラム団体が存在しているが、もしもこれらの団体が二つに分かれて争ったり、バラバラになって互いに非難したりするようになったらインドネシアの統一は大きく後退してしまう。しかしそれを望む勢力がいることを忘れてはいけない。