体験に基づくインドネシア進出の利点
このリストはJETROや日本アセアンセンター等から公開されている、投資先国別の比較データには出て来ない、15年間の駐在経験を含む、25年間におよぶインドネシアとの付き合いに基づき、インドネシアへ進出することの利点をまとめたものである。
①文化
イスラムの教え
ほとんどの従業員にとって、生き方の基盤であるイスラムの教えには、約束や決まりを守ること、清潔な環境を保つことなど、納期遵守や品質管理、そして整理整頓につながることが説かれている。イスラム教聖職者の理解と協力を得て、これらの教えを通じて社員教育を工夫すると日本式の押し付けにはならない。
インドネシア語
制定されてからまだ100年が経過していないことから、文法が非常にシンプルであり、新たに学ぶ人にとっては大変分かり易い言語である。何と言っても表記がアルファベットであるから、簡単に読める、書けるという安心感がある。そして日本人にとっては慣れ親しんだローマ字発音が基本である。業務マニュアルや作業指導書などを作る時にその有難味を実感する。
②風土
安定した気候
日本の夏ほどは厳しくはないが、年間を通じて高温多湿であることから、設備機械に対して寒冷地仕様や乾燥地仕様のためのコストをかける必要が無い。
南国の楽園
話し合いにより皆の合意で物事を決めることをムシャワラと言うが、飢え、凍えの恐怖が不要な南国の楽園で、時間がゆっくりと過ぎて行く。北方民族に見られるような、他人を踏み台にしてのし上がろうという殺伐としたところがないので、日本企業特有の日本人中心の組織に対する反感は少ない。
③歴史
独立の誇り
1945年に約300年間続いたオランダ植民地から独立したことは、全国民の誇りとして引き継がれている。ピンチに陥った時でも、独立を意味する『ムルデカ!!』という合言葉で団結力を喚起出来る。
民族間の信頼感
『敵は地元民にあらず、オランダ兵である』の命令を日本の兵士たちが厳守したこと、オランダからの独立戦争に残留日本兵の多くが命を犠牲にして支援したことなどから、当時を知る人達のほとんどは、日本人に対して深い親しみを抱いている。このことが研修や技術指導の際にも、教える側と教わる側に、今でも人間的な信頼感を醸成する。
④政治
低い役所の敷居
どこの政府機関へ行っても日本人であるということだけで歓迎される。戦後から日本とは政治的、経済的に深いつながりを持って来たこともあるが、日本人の経済力と技術力に対する期待はひしひしと伝わって来る。規制問題で困った時は、敷居を低くして相談に乗ってもらえる。
省庁間の連携
お役人は外国人に対して大変フランクであるが、他省庁の役人ともフランクにコンタクト出来るようである。所轄の省庁に困りごとで相談に行くと、その場で関係省庁との調整を取ってくれることもある。
⑤社会
貧しくても豊か
日本研修を終えて帰って来ると『日本は素晴らしい国だが、自分はインドネシア人で良かった』と皆が言う。日本に比べると賃金は低いが物価も低い。自然の恵み溢れる豊かな国である。だから自他の生活レベルに多少の罪悪感を抱くことはあっても、最低賃金制度や契約社員制度を活用し、雇用確保を優先する政府方針にも貢献出来る。
多様性の中の統一
Bhinneka Tunggal Ikaとは多様性の中の統一を謳ったインドネシアの国是である。これは実際に浸透しており、例えば組織の中でジャワ人とスマトラ人の構成比率に注意しなくてはいけないとか、イスラム教徒の上にキリスト教徒の上司を置いてはいけないとかを気にする必要はない。最近は中国系との関係も融和し始めている。
⑥経済
内需・外需二刀流
天然資源の輸出で外貨を稼ぐ、豊富な労働力を活かし輸出拠点として外貨を稼ぐ、豊かになった購買力で内需が伸びる。時として政情不安とか金融不安に襲われることがあっても、長い目で見ると、この国に根を張っている外資は、内需、外需いずれかの流れに乗って生きている。
ライバル登場
20世紀後半は豊富な天然資源と、賃金の安い労働力を売り物に外資を誘って来た。周りにはこれといったライバルもいなかったので、時として傲慢な言動も見られた。しかし、21世紀に入ってからは、ベトナムなどの近隣諸国が同じ土俵で追い上げて来ているので、おっとり構えていることも出来なくなっている。これは外資導入政策において、良い刺激になっていると思われる。過去10年間の外資政策の解放には目覚ましいものがある。これからも期待される。
⑦生活
移動中は睡眠時間
ジャカルタ市内は通勤時も外出時も渋滞が頭痛の種であるが、運転手付きの社用車であるから、この時間は睡眠に当てる。そのことで一年中の熱帯夜による睡眠不足を解消出来る。医学的にも日本人は熱帯地方で生活すると体力の消耗が激しいらしいので、これは大事な疲労回復対策となる。
単身赴任も気楽
ちょっと余裕のある庶民レベル以上になると、お女中を雇うのが当たり前になっている。運が良ければ日本人の家庭で長く務めた、日本人の奥様以上に料理の上手い、有る程度日本語も話せるお女中が見つかる。単身赴任でまず心配されるのが、炊事・洗濯・掃除の類であるが、これはお女中が解決してくれる。今ではお女中の紹介ビジネスもある。
⑧人材
単純作業に強い
毎日同じような単純作業の繰り返しであっても、教えたことは嫌がらずにしっかりと仕事をする。それを辛いと言うことはない(辛いと言うと仕事を無くすかもしれないので、本当は辛抱しているのかもしれないが・・・)。但し、仕事の仕上がりレベルは教え方次第であり、教える側に責任があるとの意識が大事である。
目が良い
日本人に比べるとはるかに視力が高い。次第に日本人指導者も特定出来ないような傷や汚れを指摘して、合否の判断を迫って来る。高齢化が進んだ日本では不可能になった、細かい作業には非常に適している。
技能伝承最後の砦
日本ではもの作りの技能伝承が大分前から言われているが、なかなか上手く進んでいないようである。もし日本に残すことが不可能となった時にはインドネシアがその受け手になると思う。素直に学ぶ、それを盗み取らない、いつまでも恩師として大事にしてくれる。日本の
良き時代の、師匠と弟子の良き関係が保てる人達である。
詳しくは kojiono@inh.co.jp までどうぞ。