技能実習制度を悪用するな
1980年代まで『浜松インドネシア技術協力協会』という社団法人があった。大東亜戦争で浜松からインドネシアに出兵したことのある企業家が、当時お世話になったインドネシアにお礼をしたいとのことで、浜松近在の企業に呼び掛けて、インドネシアの青年達が工場で働きながら技能と日本語を身に付けて、母国の産業発展に寄与出来るようにこの団体を立ち上げたと聞いている。
実際、私の駐在していた工場にもその経験者が帰国後に入社し、真面目に働いていた。また、別の経験者は帰国後に事業を立ち上げて、外注企業として活躍していた。その後この団体は実質的に無くなり、現在は技能実習制度なるものが国家間レベルで大々的に運用されている。
しかし、日本国内での人手不足解消と安い労働力確保を目的に、元々建前だけかもしれないが、本来の目的がおざなりにされて、現地の送り出し団体、日本での受入監理団体、そして受入企業の利益のために、悪辣な環境の中で三年間の生活を強いられる技能実習生も多く居ること、そしてそのことを見て見ぬふりをする関係国の政府には怒りを感じる。
私はインドネシア人の事例しか知らず、大多数を占める中国、ベトナムからの実習生のことは知らない。しかし、インドネシアからの事例から推測して、恐らく同じような制度の悪用問題が起きていることは想像に難くない。
私がコンサルティングをしているいくつかの企業もインドネシアからの技能実習生を多く受け入れているが、幸いなことに帰国後には自社の現地法人で現場のリーダーとして活躍してくれることを目的にしているので、制度を悪用して安い労働力として使っているとは思えない。
インドネシアのオランダ、イギリスからの独立戦争で共に戦った旧日本兵の存在、そして独立以降の日本企業の現地での地道な事業展開がインドネシアを親日国家にしてくれたと感謝しなくてはいけないが、そのことを忘れて目先の利益だけを優先させた技能実習制度の悪用がその遺産を少しずつ崩しているように思えてならない。