現場ワーカーの教育
インドネシアでは日系企業に限らず、どこの工場を見ても必ずと言って良いほど目にするのが『安全第一』と『5S』のポスターです。
ローカル企業の中には、どう贔屓目に見ても安全管理や5Sが行われていると思えない工場にもこれらのポスターが掲げられているのには思わず苦笑してしまいます。
インドネシアの人達は、私の個人的な印象では、形式を重んじるため、逆にポスターを掲げたことでこれらの対策が取られたと思い込んでいるのかもしれません。
日系企業であっても、これらの活動をインドネシア人スタッフに任せてしまうと、同じようなことになってしまうので要注意です。実際のところ、私にもそのような苦い経験がいくつかあります。
製造業の場合、特に品質管理の分野において、現場ワーカーの教育が重要になりますが、『安全第一』と『5S』を徹底させるのはそう簡単ではありません。
これも私の個人的な印象ですが、インドネシアの人達は先々のことをあまり心配しないように見受けられます。日本では危険予知活動を通して自身の安全対策を考えるのが普通になっていますが、インドネシアの人達にとってそれは杞憂に見えるのではないかと感じています。
では作業中に事故に遭って怪我をしても平常心でいるのかと思いきや、その時は大騒ぎとなり、大の男でもちょっとした出血で失神することがありました。
これは良し悪しの問題ではなく、そのような国民性あるいは民族性を持った人達に、日本式の『安全第一』と『5S』を徹底してもらうにはどうしたら良いのかを考える、日本人の知恵と根気の問題なのです。
私は『安全第一』の実現のために『5S』が有効であると考えて来ました。安全の中には労働災害の防止だけではなく、火災や盗難による被害の防止も含まれると思います。
これらを防止することで、会社にとってどんな利点があり、それが巡り巡って社員のとってどんな利点をもたらすのかを論理的にかつ事例を使って、耳にタコができるくらい繰り返し繰り返し説明することが大事です。
以下は私が駐在時代にインドネシア人の社員に繰り返し説明した私流の『5S』の意味と目的です。5Sのインドネシア語表現については本ブログ中の5Sのインドネシア語表現を参照して下さい。
【整理】
要るものと要らないもの(過去一年間に使われたことがない)を区別して、要らないものを捨てる。要るものとは過去半年間に使われたことがあるもので、要らないものとは過去一年間に一度も使われたことがないもので、作業机の引き出しの中や工具保管棚の中で埃を被って眠っているものを探します。
要らないと判別されたものは一ヶ所に集めて他部門で欲しいものがあれば提供して活用してもらう。その後に誰も必要としないものは責任者の承認を得て廃棄、売却などの処分をする。しかし、社員に無料で与えると意図的に要らないものとして区別される恐れがあるので絶対にしてはいけません。
安全面で重要なことは、有効期限の切れた消火器が放置されていないか、救急治療用品が規定通りに揃っているか、機能しないような劣化した安全具が使われていないかを確認することです。
【整頓】
要るものだけが残った状態で、それらが本来あるべき場所を特定し、その場所に保管します。そして、使った後も必ずその場所に戻されるような工夫をします。どこに何があるのか、緊急時に咄嗟に取り出せるかどうか、月に一度くらいは抜き打ちで訓練をしてみると良いでしょう。インドネシアの人達はお祭り好きですので、そういった類の訓練は大好きです。
【清掃】
職場の天井、梁、壁、柱、扉、窓、床、そして全ての機械や工具を毎日掃除してピカピカにしておきます。大事なことは仕事中もピカピカであることです。業種によっては機械から粉塵や埃を出す職場もありますが、仕方がないと言って諦めず、出来るだけ機械から排出される前に吸い込むような工夫をすべきです。
特に引火性の粉塵などを機械の周りに放置しておくことは大変危険です。また、健康のためと称してマスクや眼鏡を着けさせることもありますが、暑い気候のため、インドネシアの人達はこれらの装着を好まないので、装着しなくても問題無いような作業環境を実現することが基本だと思います。
【清潔】
インドネシアの人達はユニフォームが大好きです。社内でサッカーチームを結成すると、まずやることはユニフォームを作ることです。
費用はかかりますが、毎年2着以上は支給していつも洗濯された綺麗なユニフォームで仕事が出来るように配慮したいものです。
インドネシアには安価なKg単位で引き受けてくれるクリーニング屋がたくさんありますので、そこと会社が契約してユニフォームの洗濯を率先するのも良いでしょう。
また、従業員のトイレを見れば製品の品質が判るとも言われます。真っ先に従業員トイレを覗いていた工場見学の視察団メンバーも実際にいました(但し私自身はあまり良い気持ではなかったのですが・・・)。
【躾】
私は上記の整理・整頓・清掃・清潔を習慣とすることであると説明しました。最近たまたまネット上の番組で聴いたのですが、戦前の高名な教育学者も躾とは正しい行いを習慣化させることであると説いていたそうです。そしてその人が言うには、習慣化させるためには理屈でいくら説いても駄目で、形を覚えさせることが必要だそうです。
その形を見せてあげるのは誰かと言うとまず日本人で、その次には日本で研修を受けたインドネシア人のリーダーです。日本人は一挙一動が見られていることを忘れてはなりません。