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2018.05.03 インドネシアでの仕事のアドバイス インドネシア進出を検討している社長さんへのメッセージ

イスラム教に対する配慮とは

 インドネシア進出を検討している社長さん達は、イスラム教に対してどのように対処したら良いのかという、漠然とした心配を抱いているように感じます。
 私はイスラム教徒でもなく、本格的にイスラム教について勉強したこともありませんが、過去40年間のインドネシアにおけるイスラム教徒とのお付き合い、そして少しだけ本で学んだ知識を基にお話ししたいと思います。
 多くの方が誤解されていますが、インドネシアはイスラム教国ではありません。確かに2.5億人の9割を占める、世界最大のイスラム教徒が暮らす国ですが、インドネシアは正式にはインドネシア共和国であり、憲法の上に置かれる下記の建国五原則(パンチャシラ)には信仰は義務付けられていますがイスラム教を強制している訳ではありません。
1.唯一神への信仰 (Ketuhanan Yang Maha Esa)
2.公正で文化的な人道主義 (Kemanusiaan Yang Adil dan Beradab)
3.インドネシアの統一 (Persatuan Indonesia)
4.合議制と代議制における英知に導かれた民主主義 (Kerakyatan Yang Dipimpin oleh Hikmat Kebijaksanaan, Dalam Permusyawaratan / Perwakilan)
5.全インドネシア国民に対する社会的公正 (Keadilan Sosial bagi seluruh Rakyat Indonesia)
 実際、全体の1割前後と数は少ないのですが、禁止されているユダヤ教など一部の宗教を除き、キリスト教徒、仏教徒、ヒンズー教徒(バリ島では多数派)などが共存しています。
 そうは言っても国民の9割はイスラム教徒(ほとんどはスンニ派)であることから、色々な面でイスラム教の影響が大きいのは自然なことで、日本人および日系企業であってもそのことに配慮するのは当然であり、郷に入り手は郷に従えであると思います。
 先ず知っておかなくてはいけないこととして、イスラム教徒に義務として課せられている下記の五つがありますが、これらについて日本人として配慮すべきことを述べたいと思います。

1.アッラーの神に対する信仰の告白
 日本人は神道と仏教の混在をほとんど気にしない稀な民族ですが、イスラム教徒にとって異教徒は聖戦の対象となるくらいですから、その身元は非常に需要とされます。
 例えばイスラム教徒はイスラム教徒以外との婚姻を禁じられていますので、社内結婚でもヒンズー教徒がイスラム教徒の女性と結婚する時は花嫁に合わせてイスラム教に改宗していました。
 独身の日本人駐在員がイスラム教徒のインドネシア女性と結婚する場合も同様で、日本人はイスラム教徒に改宗することを宗教省において誓わなくてはなりません。
 イスラム教の聖典であるアルクールアン(日本語ではコーラン)は、飲酒や豚肉を食することを禁止しています。もし彼らと会食をする機会がある場合は、インドネシアあるいは日本を問わず、出来るだけ彼らの戒律に合った条件の下で行うことが望まれます。また、飲酒を強要することなどは絶対にいけません。

2.年に一度の約4週間の断食
 イスラム歴は西暦に比べて12日前後一年が短いため、毎年反時計回りにずれて行きますが、宗教省と主要なイスラム団体が定める期間は一斉に断食を行います。
 実際には朝4時頃の最初の礼拝以降、陽が沈む夕方6時頃の4回目の礼拝までの間は、飲食喫煙を絶ちます。7歳未満の子供、妊婦、病人などは免除されますが、普通に働いている人達はこの時間帯は断食を行います。
 当然のことながら昼食は摂らないのですが、会社は昼食手当を支払うことが義務付けられています。ケータリングなどで現物出資している場合はお金で支払うことになります。
 イスラム教徒以外の社員も居る場合でも、この間は昼食は提供しません。日本人も含めて、どこか近くで営業している屋台かレストランを探して食べることになります。もちろん断食に付き合っても構いません。
 勤務時間中もイスラム教徒はもちろんのことお茶やコーヒーを飲んだり、煙草を吸ったりしませんので、日本人も彼らの目の届くところではなるべく遠慮した方が良いと思います。
 そのことを敢えて聞いたことがあるのですが、『断食は私とアラーの神との約束であるから、あなたがそれについて遠慮することは何もない』との返事でした。
 但し、この間は乾き、空腹、寝不足でどうしても注意不足になりがちですので、労働災害が起きないように生産量を少し減らす、危険な作業は避けるなどの配慮が必要と思われます。

3.持てる者が持てない者に施す喜捨
 年に一度、あちらこちらのモスク(大きな礼拝堂)では、金持ちや企業などから寄贈された牛や山羊の生贄をイスラム教の戒律に則り屠り、集まった大勢の庶民に分け与えます。
 社員達もこの日のために寄付金を集めて生贄を寄贈することがありますが、会社としても協力して欲しいと申し出てくるかもしれません。その時は読んで字の如く喜んで協力したいものです。
 日本人がインドネシア人に対して良く腹を立てる原因の一つにこの喜捨の教えがあると、インドネシア人に言われたことがことがあります。
 例えば日本人駐在員はインドネシア人の使用人に比べて遙かに所得が高く、彼らから見たらお金持ちである。だから富める者から貧しい者に恵むのは当然であり、少しくらい釣銭をごまかしても良いではないかと言うのである。逆に喜捨の機会を与えて上げたのだから、それに感謝して欲しいと思っているかもしれないと諭されました。

4.生涯に最低一度のメッカ巡礼
 1ヶ月くらいわたる正式な巡礼と、1週間くらで済ます短期間の小巡礼ウムローがあります。
 インドネシアの労働法では『雇用主は、宗教に合わせて労働者が宗教上の義務を果たすための十分な機会を与える義務を負う。』と明記されているため、もし従業員が巡礼に参加するために休暇を申請して来た場合にこれを拒絶することは出来ません。
 また、特大有給休暇/長期休業の長さは2ヵ月とし、7年目と8年目にそれぞれ1ヵ月実行される、とも規定されています。この権利を取得してメッカ巡礼に参加する従業員は皆で祝って送り出したいものです。
 但し、巡礼には数十万円の費用がかかるため、返って来た後の生計が大丈夫であるのか念のために確認した方が良いかもしれません。実際に全財産を処分して行った人もおり、帰って来てから苦労したケースもありました。

5.一日に5回の礼拝
 インドネシアではIsya(20:00前後)、Subuh(4:00前後)、Lohor(12:00過ぎ)、Asar(16:00前後)、Magrib(18:00前後)となっています。
 特に工場で配慮が必要なのは16:00前後のAsarで、どうしても作業時間内になってしまうことが多いため、ライン行程などで
作業者が抜けると支障を来す職場は少し時間をずらすとか、交代で抜けるなどの工夫が必要です。
 しかし、それを強制することは出来ませんので、従業員の理解と協力を得た上で実施しなくてはなりません。出来れば日本人が直接話をするのではなく、インドネシア人の幹部社員を通じて話をすることが望ましいでしょう。